思考法を纏めたビジネス書の秀作【降りてくる思考法】

            <p> 【降りてくる〜〜】というタイトルだが、決して「何かスピリチュアルなものが降りてきた」とか、そういうことではないし、また、腰巻きに「ロジカル・シンキングはやめなさい!」と銘打っているが、論理的思考を軽視しろと言っているのでもない。<br />    本書は、クリエイティブな思考法を謳うだけあって、普通に生活しているだけではなかなか気づきにくいところまで考えて、一冊の本に仕上げている。ここ最近読んだビジネス書の中では、比較的上質な中身だとも言える。</p>

 

 

 

Part 1.あなたの可能性を最大化する思考法

 

「すべての人間は考えることが苦手だ」という前提から始まり、無数の“枠組み”を作っていると指摘している。確かに、世間的な問題や価値観は、“枠組み”によって支配されていると言っても過言ではない。戦争がなくならないのは「他国・他民族を信用すべきでない」という恐れからきているし、女性が体型を気にするのは、「太った体は美しくない」という観念に基づくものだ。そして、そういった価値観等も含めて、ほとんどのところは“無意識”が決めている。そして、その無意識にアクセスするために、“意識”を徹底的に使う、つまり、あるテーマや課題に対して意識を集中させて使った時に、無意識の領域が持つポテンシャルをたっぷりと引き出して使うことができるのだ。そのために、著者は「メタ思考」(何故? と問い続けるクセを持つこと、脳を休ませることなど)のやり方を、本書で述懐している。次の章では、更に、可能性を最大化する方法を紹介している。

 

Part2.脳を狭く小さく使う48のスキル

 

    この場で48のすべてを紹介することは出来ないが、私が感銘を受けた項目がいくつかある。
    まず「なくす」
    人間は、極度のミニマリストでない限り、本当に必要のないものまで取っておいてしまいがちだ。しかし、ただモノをなくして最低限の生活をしろ、と言いたいのではなく、どうしてもなくせないものから組み立てることで、新しいものを生み出すことができるとしている。例えば、カードという物は、クレカであれポイントカードであれ、どれも単に「個人認証」をしているだけに過ぎない、となると、普段持ち歩いてもいいものだけを絞ると、それだけで普段の自分の生活を見直すことが出来るのだ。中には、「肝心なものをなくす」という、ちょっとアグレッシブなアドバイスもある。電車に車輪をなくす、という発想からリニアモーターカーの技術生まれる訳だし、Twitterにしても長文のメッセージをなくしてしまったことによって他のSNSとは違うタイプを生み出した。その肝心なもの、というのは、捨ててしまうというのもイノベーションの一つなのだ。

    もう一つは「くっつける」。
イデアとは既存のものの組み合わせだ、とはよく言ったものだが、その既存のものを超えるレベルでのアイデアは、実はこの「くっつける」ことにあるという。私も同感だ。
例えば、私自身も子供の頃あらゆるテレビゲームをやってきたが、超がつくほどの人気作の続編は、「くっつける」ことによって新たな魅力を引き出したものがある。例えば、ファイナルファンタジー5のジョブチェンジシステム及びアビリティシステムというのをご存知だろうか。ジョブ(職業属性)や、そのジョブに合った能力(アビリティ)で戦うという発想は、既に5より前にあったが、そのジョブとアビリティをくっつけて自由に自分のプレイアブルキャラクターをカスタマイズするというやり方で、抜群のバランス及び素晴らしいゲーム性を生み出した。他にも、初期のポケットモンスター(赤・緑)は、初代であれ、それまでに発売されてきたあらゆるゲーム(魔界塔士サガ、MOTHER、女神転生など)のシステムをくっつけて出来たものだという話を聞いたことがある。結果、ポケモンシリーズは世界でもマリオと肩を並べる程の人気作となった。

    更にもう一つは「〜だとすると」。
何か大きな問題が起きたら、自分がウルトラマンだったらどんなふうにして解決するのか、発想や行動力が欲しければ、アインシュタイン坂本龍馬だったらどう考えるのか。そのように自分が「〜だとすると」と考えると、様々なイメージが思い浮かぶ。ライバルを想像してもいい。もちろん、いろいろな意味で現実にありえない相手でもOKだ。出来れば最も恐れるもの、例えば、自動車部品関連の中小企業の社員であれば、トヨタの社長とか。世界平和を願うのであれば、ゲームに出てくる魔王とか。馬鹿馬鹿しいと思われるかもしれないが、そのような発想から自分のやるべきこと、やりたいことが現れてくるというのは、まさに「思考が降りてくる」ことに他ならない。

 

Part3.降りてきたアイデアを育てて世に出すコツ

 

    そして、本書では特に「脳を狭く小さく使う」ことの重要性を説明している。つまり、48のスキルもそうだし、降ってきたアイデアも使いこなせなければ意味がない。その為に、「前列に縛られていないか」「自分のアイデアを過大評価していないか」「よいアイデアは論理的思考で見分けろ」など、自分の思いつきを単なる思いつきに終わらせないやり方を書いている。真新しいアイデアはとても魅力的で、それだけで十分に役目を果たしてしまったと我々は考えがちだ。しかし、すべては行動し、実現してこそ意味がある。降りてきたアイデアを十分に活かすためにも、自分を見つめ直すこともまた必要なのだ。

 

    本書は、決して常識はずれなイノベーションや突飛なアイデアを示す裏技的な本ではない。むしろ、アイデアを考える時には楽しみながらも、誰よりも深く思考する、誰よりも徹底して思考するということがどれほど必要かも書いてある。もし、アイデアに詰まったり、思考が降って湧いてきたとしても実行に移せないのであれば、それは枠組みの中にはまってしまっているからだろう。その枠組みから一歩踏み出して、自由かつ個性的なアイデアを誰もが持っている。何故なら、アイデアというものは前例がないからこそアイデアなのだから。