新感覚ライトノベル【通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?】

            <p>    私が小学生の頃、アトラスの人気ゲーム作品<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%F7%BF%C0%C5%BE%C0%B8">女神転生</a>シリーズの1つである「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%E9%A5%B9%A5%C8%A5%D0%A5%A4%A5%D6%A5%EB">ラストバイブル</a>3」という<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B9%A1%BC%A5%D1%A1%BC%A5%D5%A5%A1%A5%DF%A5%B3%A5%F3">スーパーファミコン</a>のRPGをやったことがある。そのゲームでは中盤のあるイベントと終盤に、主人公の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C9%E3%BF%C6">父親</a>と母親をパーティーに加えることができ、しかも戦闘能力も低くない。特に母親の方は、攻撃力も結構高く、最高の全体回復魔法を覚え、しかも二回攻撃出来る最強の槍を装備できるので、それを装備させて「かーちゃん強えーなー」とか思ってやったことがある。ラスボスもかーちゃんがいるパーティーメンバーで倒した。</p>

    しかし、このライトノベル、母親が「デフォルトで」「二回攻撃で」「全体攻撃」である。どんだけチートだよ。と思ったものだが、考えてみれば突っ込むところはそこじゃなかった、です。

    今回は久しぶりにライトノベル
通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?

 

 

    本作は第29回ファンタジア大賞を受賞した、新感覚の「母息子同伴冒険ファンタジーコメディ」(?)。でももちろんその母息子はもともと現実世界の人間です。ジャンルは言うなれば、よくある転送モノと言われればそれまでですが、それを補って余りあるほど面白かったです。
    さて
    メインヒロインが妹や姉のラノベや漫画。そんなものは今やありふれているのかもしれない。しかし、メインヒロインが母親とは、私も他に知らない(もちろん先述のゲーム「ラストバイブル3」にはちゃんと主人公と同い年で、相思相愛のメインヒロインがいる)。
主人公が男子高校生なわけだが、まあ例によってど・こ・が! アラフォーだ!! と突っ込みたくなる容姿の美人のお母さんでしかも息子を溺愛している。息子の方はとりあえずマザコン設定ではないが、まあ男はみんなマザコンだし、かなか酔狂なプロットが世に出てきたものだな、と思った。
     それ以外の展開とキャラクターは概ねテンプレに沿っている。主人公がRPGの世界(作中では「MMMMMORPG」→ママの、ママによる、ママのための、ママと息子もしくは娘が、大いに仲良くなるための、RPGの略)に転送され、その世界は王西洋チックな王道ファンタジー。仲間になるのもツンデレ女子高生とロリで、着替えや入浴や服が魔物に溶かされるなどお色気シーンも一通り揃っている。本当、メインヒロインである母親までゲームの世界に入り込み、冒険するという点を除けば。

 

    現実世界においても、男はだいたいにおいて、好きなタイプの女性は母親と同じような人を好きになるらしい。そういう意味ではこの作品はどストライクに男の願望を狙ってきたわけだが、さすがに直球過ぎて、ゲームで例えれば「クソゲーではないもののバカゲー」といった感じのものになっている。実際、設定や文章は、昨今のラノベの中では悪くなく、スタンダードなので、ちゃんと主人公と母親の愛情が伝わってくる。多少ネタバレになるが、終盤にはツンデレ女子高生とその母親の関係にももつれ込み、大バトルを繰り広げる。

 

    このような近親モノや倒錯性に溢れる設定は、一般の書籍では文学性や約束されたアブノーマルなファクターを秘めていない限り忌避されやすい傾向にあるが、そこを逆手にとってライトノベルという基本“何でもあり”な世界でやるのは、よく考えてみれば「何故今まで誰もやらなかったのだろう」という気持ちにすらさせる。実際、キャラクターの魅力はバッチリだし、単純なマザコン物として見なくてもちゃんと女子高生やロリもいるし、読者のニーズはキープしているところも良い。文体も一人称のような三人称で、勢いがあって清々しい。
ラストの数ページは、まあ大体読めていた展開になるとは言え、それはそれでスッキリした終わらせ方をしてくれる。続編も出るようだし、ここから更に「俺妹」みたいにキャラクターを軸に話の筋がぐるぐる回りながら最後は母親エンド……なんてなったらそれはさすがに狂気としか今のところは思えないが、そこをどう見せてくれるのか、今後のこの作品及び作者に期待したい。