鬼才押切蓮介のはじまりの前 奇っ怪の0【カイキドロップ】

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カイキドロップ

カイキドロップ

 

 

 今日は僕の大好きな漫画家の押切蓮介氏のありとあらゆる初期作品を収録した、これを選ぼう。いつものようにamazonの商品紹介を――

 って高っ!!!いつの間にかこんな値段釣り上がっちゃったの!?まあある程度は予測出来ていたが。

 致し方ない。今回はなるべく作品の内容や当時の押切蓮介という漫画家の説明にフォーカスして記事を書こう。

 

 本書は押切蓮介氏がネット上で発表した作品や対談、書下ろし作品、更には他の作家さんの漫画まであり内容が盛りだくさん。おまけに氏の制作した音楽も含めた、素晴らしい曲を多数収録したCDまでついてきているという大盤振る舞い。すみません、さっきの高いという言葉、撤回しますこれだけついていて3000円前後(2016年1月7日現在)はその値段相応、いや、それ以上の価値のものです。押切氏のファンなら絶対に買うべし(古参ファンなら既に所持している方も多いだろうが)。

 

 ハイスコアガールであらゆる方面で人気及び物議を醸したが、この頃の作者のフィクション作品はほとんど完全にホラー物という分野に舵を切っていた。特に幽霊や妖怪の出てくる率は半端じゃなく、「ミスミソウ」のプロトタイプとも言える短編「かげろうの日々」を描くまで、幽霊や妖怪の関わってこない話などほとんどなかった(ギガナイフがあるって?あれは画力や発想がいろんな意味で妖怪レベr

 押切氏と肩を並べる程に(いい意味で)頭のネジが吹っ飛んでしまっているのは、対談相手であり親友の清野とおる氏だ。今でこそ東京都赤羽のコミックエッセイなどを書いているが、正体ははっきり言って変態そのもの。この本に載っている押切氏との会話や漫画の内容ももちろんだが、押切氏のアシスタントの女性に、女性器の名をあてがうとか、もう異常……。自らの漫画のタイトルを「不快な読みもの」としているが、それが如何に単なる自虐やジョークでなく、本当にその通りのものであるかを思い知らされる。もちろんいい意味でだ。

 探検と称し、近場を歩き回ることが好きなことで知られる押切氏だが、この作品でもやはりその内容のものが載っている。それにしても自分の感じた事をここまでホラーチックに脚色しなくても……まあ面白いし、そこがすごいんだけど。

 怪奇絵日記やウキキ人生などは、本書と同じ名前である氏の公式サイトにもある。しかしあとがき漫画いわく描き直しているとのことなので(実際、微妙に絵が違う)初めて読む方でなくても改めて読み直すも良し、見比べてみるのも良し。昔日記などもそうだが、何だかこのやりきれない虚無感や暗さや筆力、平成のつげ義春って印象がするな……。

 現在も高く評価されている氏が描く可愛い女の子も、この本で少しだが登場する。昔は美少女が描けない、と知り合いにぼやいていたくらいだったのに、一体いつからここまで独自の魅力を確立させたのだろう。それはひとえに、あとがきで述べているように、氏が「一日一作」を貫いてきたからなのだろうな。まさにローマは一日にしてならず、だ。

 失礼かもしれないが、氏は妖怪漫画を描くプロとしては、他の大御所や研究家達と比べたら、そこまで深い知識を持っているわけではないと思われる。しかしここまで心霊物の基礎を抑え、読者の心に刻み込ませるような印象深いギャグや本格サスペンスを交えたホラーを描けるということは、人間のもつ狂気と恐れを具現化させ、漫画としても十二分に面白く魅せるという才能を最初期から持っていたのだろう。その引き出しの広さやあらゆるジャンルに対する造詣の深さには恐れ入る。

 もう一つ、本書を語る上で無視できないのが、清野とおる氏だけじゃない、他の漫画家さんたちによる書下ろし作品だ。しかも、押切氏のスタイルに合わせたのか、そのほとんどが日常エッセイや怪奇、人間の狂気を取り扱った漫画である。いろんな意味で怖いのもあるが、笑えるものもある。一つ共通して言えることは、この時点で既に押切氏の才能を理解していた方々ばかりが集まったのだな、と推測できる。でなければそれぞれがこんなぶっとんだ漫画を、他者の書籍で載せたりなんかしない。

 そしてCDに収録されている音楽。対談集や表紙カバーの写真で、押切氏のご尊顔を拝することが出来るが、氏が自ら作り、歌う曲もあるので、声も聴くことが出来る。これこそ、ファンは公式サイトなどで満足せず、自前のプレイヤーに焼いてじっくり聴くことを強く勧める。他の作曲家さんたちの曲や演奏、テクノの編集も素晴らしい。無名時代からどれだけ顔が広かったんだ押切氏は……。それにしてもMIXIの歌、ってアンタ(汗。 個人的にはオーラルヴァンパイアの「Vマドンナスキゾイド」がすごく気に入った。あらゆる意味でおいしい。ただ中には本当に怖いと感じるような曲もあったりなんかするので(10曲目など)、夜一人で聴いてたりすると少しちびるかも。

 

 多数のアーティストさん達が関わっているからなのか、版元の都合なのかは知らないが、本書の復刊はなされていないし、今後もされる可能性は高くない。しかし、氏はミスミソウで雑誌の看板を務め、ハイスコアガールで一躍有名作家になる前から、その非凡な才能を余すところなく見せていた。

 本書はファンブックなどという生易しいものではない。氏の作品を読んで少しでも面白いと感じ「この作者は何者?」と感じたら、真っ先にこれを買い、読み、聴くべし。創作家のことを知りたいなら、単純なプロフィールや経歴だけでなく、その創作物や日記やエッセイなどに触れるのが一番だ。それはおそらく、どの作家でも変わらない。