<p> 素晴らしい。素晴らしい青春小説です。本当に<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%E4%A5%F3%A5%B0%A5%A2%A5%C0%A5%EB%A5%C8">ヤングアダルト</a>の大傑作。私はこの一冊で一気に著者のファンになった。</p>
著者のジョン・グリーンは、1977年生まれのアメリカの作家でYouTubeビデオブロガーでもある。第4作目の「さよならを待つふたりのために」が世界的で爆発的ヒットとなり、2014年、time誌に「世界で最も影響力のある100人」に選ばれている。本書はその処女作であり、エドガー賞ヤングアダルト部門賞を受賞している。
ーーあらすじーー
伝記が好きで、著名人の「最期の言葉」を知ることが好きなマイルズ(太っちょ、と呼ばれる。ちなみに太ってはおらず、ガリガリである)は、ラブレーがのこした言葉「偉大なるもしかして」を探しに、アラバマの寄宿高校に転校する。そこで、個性豊かなチップ(大佐)や日系人のタクミと友だちに なる。そのなかでも本好きの美少女アラスカは、頭の回転が速く、破天荒で、とんでもない行動力をもつ。だが、ミステリアスな雰囲気でカリスマ性もあり、マイルズは心惹かれてゆく。
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まず
私がこの作品に感じたのは、たった一つしかないものに限って、人はそれを無為に過ごしてしまったり、無駄にしてしまうということ。
それがたとえ悪いことであったとしても。
一番初めにしごかれた儀式。
最初の理不尽ないじめ。
はじめての喫煙、飲酒、クスリ。
でも、良いことだって当然ある。
一瞬しかない高校時代。
一度しかない初恋。
一度しかないファーストキス。
一度きりの性体験。
一度きりの最高のいたずら。
そして
一つしかない命。
一つしかない命なのに、救えなかったことについてだって、登場人物は後悔する。
一度きり声をかけてあげれば、その大切な人は今も目の前にいたかもしれない。
その、苦しんでいる時、誰かに助けを求めていれば、その人は今も自分のそばにいてくれていたかもしれない。
ほんの一瞬しかないものの数々。
世界にはそんなもので溢れかえっている。
けれど我々は無駄にする。かけがえのないものを。無駄にするからこそ生き続ける。この短い人生を。本当に短い。
なのにそのあっという間の間に、何故人は次から次へと喪失を繰り返し、辛い思いを繰り返していくのだろう。何故今この時を大事にしているはずなのに、いくらかの大切なものは、両手で掬った水のように指の隙間から零れ落ちていくのだろう? 掬って口に含んだ水はその人の生きる糧になるけど、地に落ちた水は永久に乾くまで地面に縛り付けられたままだ。
本書の中盤から結末までは、前半とは打って変わった雰囲気のまま物語が進んでいく。それも、文章やストーリーによってではなく、読者の心持ちによって、だ。
アラスカの後悔。主人公の後悔。その結果、心もやることもメチャクチャになって、そこに惹かれる人がどんどん出てきて、みんなデタラメな日々や充実した日々、美しい人生を送って。でも最後には、すべてを忘れながら、美しい場所へ追いかけて、生き続けることができる。そんな人生は、どこにでもあるはずなのに、美しい。それこそ、飾らず、驕らず、突き進む魅力たっぷりのアラスカのように、この小説は輝いている。
この小説に出会えたことによって、私はこれからの自分の運命が美しく変わっていけそうな予感がした。