【清水潔】すべては真実を知ることから始まる【殺人犯はそこにいる】

            <p>・北関東連続幼女誘拐殺人事件</p>

・盲信、捏造されたDNA鑑定
・強要自供と杜撰且つ非人道的な取り調べ
・隠蔽された事実と、無実の男性
・殺された幼い少女達……

確かに、とある理由により、近所のブックストアで本書を手に取らなかったら、私も本書に書かれてある事実をよく知らないまま一生を終えていたかもしれない。そういう意味では私という人間は「事実を知らなかった」で済ましていた愚か者の一人だったと思っている。しかし、それもこれも、本書は名実ともに、決して目を背けてはいけない、恐るべき事実ばかり書かれているのだ。


それが、ジャーナリスト清水潔氏の執念と真実を追い求める熱意によって執筆された【殺人犯はここにいる】。

 

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

 

 

例えば、ノンフィクションであろうと、海外だとよく黒人弾圧のために無実の黒人容疑者を死刑に追い込んだり、賄賂を握らせたり、枚挙にいとまがない。米国でも冤罪事件は25年間で約1300件もあるという。しかし、我々は、他国とは違い、この国を清廉潔白法治国家と信じてやまず、殺人犯も司法の闇も野放しにしているという現実がある。そう、この日本でも冤罪事件というのは、決してフィクションの中の世界ではなく、作り話などよりもよっぽど冷酷で残虐な現実が存在するのだ。

本書で追い求められた北関東連続幼女誘拐殺人事件。
著者の渾身の行動と執筆により、明かされた真実(それでも、全てではない)。
その一方で、マスコミや警察など、国家権力は全て嘘を嘘で塗り固め、被害者や冤罪で何年も拘束された人々をはじめ、数多くの存在を奈落の底に突き落とした。

「DNA鑑定があるから」
「今の警察の犯罪捜査能力は凄まじい」
「いずれ凶悪犯は捕まる」

それらは、何の根拠もない、腐りきった安堵感だ。

事実をはっきりさせるどころか、全て自分や自分の組織に対して都合の悪いことは嘘を嘘で塗り固める。それをこの国の司法の人間は行う。結果、殺人犯は未だに捕まっていない。
しかし、犯罪者に甘いのは司法に携わる人間だけではない。こういった事実に目を背ける一般人でもある。
日本のマスコミの流す情報は実に上手く出来ている。先述の通り、自分に都合の悪いことを隠すのはもちろんのことだが

【凶悪かつセンセーショナルな事件があった】
⬇︎
【だが、後ほどそれが冤罪だと判明した】【犯人探しをする(ただし、事件を起こした犯人ではなく、無実の罪に陥れた人間の主犯にスポットライトを当てて】
⬇︎
【それを見たユーザーに怒りという感情を湧かせた後、別途お涙頂戴や悪者叩きの演出を起こし、溜飲を下げさせる】

一体、このプロセスのどこに、事件を解決させる糸口があるというのだろうか?

この国のマスコミや司法機関による情報を一方的に得るだけということがどれほど危ういか、加えてそれがどれほどまでに自分や家族の命を“直接”奪う発端となるのか。強制的に自供させられた無実の人間と同じように、この国の人間全てが洗脳されていないと誰が言い切れる?
更に始末が悪いことに、これほどまでのことが起きても、まるでやり口が変わっていない。本書を読むことで、この国のメディアや情報機関に疑いを少しでも抱かないという人がいるのであれば、本書のタイトル通り、「次の瞬間に殺人犯と目を合わせる可能性があるのではないか」と想像する力をしっかり働かせることを強く薦める。

この本の著者は見事としか言いようのない行動と実績をなし得たが、やり尽くしてはいない。それは、まだ犯人が捕まっておらず、行方不明の女の子が見つかっていないという事実ももちろんであるが、我々はあまりに甘すぎるのだ。マスコミや警察というものに。
この本の内容、いや、実際に起きた一連の事件のように、一般人に憤りや不信感や恐怖を抱かせる事実というものが存在する。しかし、それで終わらせてはいけない。人を救うのは正義でも理念でもない。まさに事実だけなのだ。
だから我々はこの事件に対して失意の感情を抱くだけで終わってはいけないのだ。実際におかしいことは全て疑い、あらゆることを自分で考える力をもたなければならない。そして行動すべきなのだ。
思考停止と事実の隠蔽は何より醜い。
むしろ、悪を生かしているのは、情報機関や権力者だけではない。無関心や思考停止といった、普段人が何気なく持つ心の隙だ。

ましてや、今のこの日本で、恐ろしい事件に対する身の保障などされるべくもない。

もし、あなたがこうしている今、殺人犯に殺されたら?
いきなり刑事が目の前にやってきて刑務所へと連行されたら?