<p> </p>
10年ほど前に話題になった作品ですが、今頃になって読みました。
ドラマ版や映画版、また続編等に関してはまだ見ていません。
作品の冒頭からいきなり、ストーリーの中心人物である松子の死の発覚で始まる本作。それと並行してもう一人の主人公である甥の笙が真相を追い求めていく様子と、松子の壮絶な一つの人生がそれぞれの視点で回顧録のように淡々と進んでいく。
ストーリー全体としては、松子自身によるあまりの突拍子もない判断や要領の悪さに辟易させられる部分も多いが、この作品においては冒頭で松子が死んでいるという事実から始まるため、それぞれの行動に読者が違和感をおぼえることなく読み進めることが出来る。「ああ、自分からそういった行動にでないとそこまでの不幸には陥らないよな」と。
更に、松子の行動の動機も、その一つ一つは、ただ目の前の幸せを即物的に求めてきたというものがほとんどだ。計画性もまるでなければ、かなりの理想主義者でもある。しかし、物事は、悪い方向へと、というよりは、「そりゃこんなことしたら最悪そうなるよ」という、第三者から見ればだいたい予想できることを、なぞっていっているのである。プロット全体としては、非現実的でもなければ超展開で進んでいくわけでもなく、ドライに進んでいく。しいて言えば、松子の運命が常にその❝最悪❞の目を引き当ててしまっている点においては、同情の念を禁じ得ないという考えも出来なくはない。
個人的な感想として、本作品は現実離れしていない人間ドラマとしては、かなりもやもやが残るようなダウナー系のものが好きな人にとっては、良質な作品だと言える。
そして。
サスペンスものとしてみてみればどうか。
文庫版下巻に書かれてあるように、この作品をミステリーとして読むと、一応倒叙モノとして読むことになるのかもしれない。
結末の詳細を書くのは控えるが、終章も、最後のページまでただひたすら後味の悪いものとなっていて、笙やかつての教え子といった彼女の理解者にとっても、救いがなさすぎる。だが、彼らに、そして読者に与えたその救いのない顛末で感じさせるその感覚は、まさにそれまで松子が出会ってきた人々に対して与えてきたペーソスや忸怩たる思いそのものだったりするのだ。
つまりここにきてようやく、「❝嫌われ❞松子の一生」というタイトルを回収することになる。
よく出来ていると思う。
松子の誰かを愛そうとする気持ちは本気だった。
笙が伯母の死の真相を知ろうとする気持ちも、ただの興味本位などではなかった。
けれど、一人の人間が、まるで死神のように周りを巻き込み、それぞれにほんの少しばかりの不幸(殺人なども犯したりしたが……)をばらまき、残していくのは、狂おしい。実際彼女は押しちゃいけないボタン全部押しているし、善行以上に大きく人を陥れたりしたりすることの方が多かった。
本当の意味での理解者が常に彼女の周りにいれば、転落人生なんか歩まずにすんでたかもしれなかった。そういう意味では、その一人になれそうな親戚の笙が、松子の事を死んでから知った、というのも、また救いがない。