【保守の女神】肩をすくめるアトラス【アイン・ランド】

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肩をすくめるアトラス 第一部

肩をすくめるアトラス 第一部

 
肩をすくめるアトラス 第二部 二者択一

肩をすくめるアトラス 第二部 二者択一

 
肩をすくめるアトラス 第三部 (AはAである)

肩をすくめるアトラス 第三部 (AはAである)

 

 

 

 アメリカで聖書の次に読まれていると言われている作家アイン・ランド。特に本書は氏の最高傑作とも言える、文庫本にして1800ページ以上の大作です。
 近年ベストセラーになった経済論の本としてはピケティの「21世紀の資本」が有名だと思いますが、こちらは小説であり半世紀以上前に出版され、また政府の多額の借金や数多くの税の導入など様々な未来を見透かした作品だとも言われています。

 

 物語は、資本主義の衰退と陥落がこれでもか、と書かれ続けています。しかし「人間がもつ道徳とは合理的なエゴにある」と登場人物(作者)は主張し、作中で国家の破滅やディストピアを展開させることによって、保守的な思考のあり方を強調し、逆説的にその必要性を訴えている点が、本書の根幹となっています。

 

「人間が合理的である限りにおいて、生命は行為を導く前提となる。人間が非合理的であれば、死が行動を導く前提となる」

「涙で海を満たしても、世界の銃をかき集めても、財布の中の紙切れを明日をしのぐパンに変えることはできません。あなたの財布は、世界のどこかにお金の根源たる道徳律をおかさない人間がいるという希望の証だ」

「お金は常に結果であり、あなたに代わって原因になることはありません。お金は美徳の産物ですが、美徳をくれはしないし、悪徳を贖ってもくれません。物質的にも精神的にも、稼いでいないものを与えない。これが、あなたがたがお金を憎悪なさる原因ですか?」

 

 本書の登場人物及び作者を「エゴイズムの権化」「拝金主義」と片付けるのは簡単です。特に日本ではお金の話になると眉を顰める人が多かったり、経済論を語るための文化的土壌がアメリカに比べると乏しかったりするので、多少強引かつ説得力のある理論が展開されただけで、あっと言う間に賛否がわかれます。しかし本書はーーそこかしこに散らばっているビジネス本のように現代の価値観でしかお金を見ずに当たり障りのない意見ばかり述べるのではなくーー寓話の如く、全ての人間が抱いているであろうお金や資本という概念のもつ清濁や哲学に関して深く考察しており、そのメッセージ性の強さは他の追随を許しません。

 

 最後に。
 確かに思想については今でも議論を呼ぶことの多い作品ですが、単純にディストピア、ビジネス、恋愛小説としても楽しめる珠玉の一作です。

 

 しかし高いです……文庫版3冊合わせて6000円以上しました。ハードカバーも大体同じくらいの値段でしたが。