【空が灰色だから】阿部共実作品【大好きが虫はタダシくんの】その1

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 2010年代に出会った漫画の中で、ハイスコアガールと並んで僕が最も感銘を受けたのが、阿部共実氏の漫画。

 先日、氏の一年ぶりの単行本【死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるほどしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々】2巻が発売されたので、その記事を

 と思ったが、語りたいことが沢山あるので、新刊及び話題作となった【ちーちゃんはちょっと足りない】は、また次回に。

 今回は、僕が氏の作品に出合った経緯から。

 

 2013年くらいの時、僕はネット上で「検索してはいけない言葉」というコンテンツ(と呼んでいいのかわからないけど)にはまっていた時期があった。それは、文字通り“そのワードで検索したら不快な思いをしてしまうかもしれない”というものであり、その中で「大好き タダシ」というワードがあった。そして検索したら――上記の「大好きが虫はタダシくんの」の表題作である漫画の全ページが載せられているスレがヒットしたのである(初めてそれを見た時は、まだ単行本化していなかったが)。

 最初は「何だか絵がねこぢるっぽいけど、滅茶苦茶面白い」という率直な感想を抱き、当時3巻まで出てた「空が灰色だから」を全て揃えた。そこからゾクゾクしながら読んだものだった。

 基本的に一話完結型のオムニバスで、登場人物も話の筋も話によってまるっきり変わるため、笑いに転じるか不幸なエンドで閉じるかわからないところが素晴らしい。この感覚は、世にも奇妙な物語に通ずるところがある。1巻の最後あたりに収録されている「ガガスパンダス」なんて思いっきりずんどこべろんちょっぽいし

 2010年にチャンピオンでデビューした時点で25歳だったらしいのでおそらく僕と同じくらいの年代だと思われるが、その時から少年漫画という分野においてこれだけ個性的な語彙を用いて、最後のページをめくるまでオチがわからない不安な感覚に襲わせるというのは、仰天するほどの才覚だ。【空灰】は裏表紙の紹介でも書かれている通り10代女子を中心に話が進んでいくが、実際に学生生活ものが多いため、どのようなエンディングでも納得できてしまう展開に出来てしまう可能性の広さがあるため違和感がない。中にはホラーチックで非現実的な要素が出てきたりなんかもするが、それも含めて現実に起こりそうな錯覚を抱くため、より恐怖感が増す。惜しくも【空灰】は5巻で終わってしまったが、現在は少しモデルチェンジして、刊行されている【死に日々】に続くので、ファンとしては安心だ。

 初期の短編作品を中心に集めた【大好きが虫はタダシくんの】の単行本は、【空灰】に比べるとネットなどで話題になることがそれほど多くないかも知れない。確かにこの時点ではまだ氏の才能が今ほど開花していない印象も受けるが、先述の通り表題作だけでもう既にかなりの衝撃を受ける内容になっているので、十分に満足のいく作品になっている。カラーページをフル活用している冒頭の二つの漫画も面白く、「ドラゴンスワロウ」みたいなギャグ前回の百合物も悪くない。続いてデビュー作である「破壊症候群」に入るが、ギャグやノリが結構ドタバタかつセンセーショナルだったりして、この頃は少し、同じチャンピオンの人気漫画である「浦安鉄筋家族」の面影が見え隠れしなくもない。その話の後に短編作品が3つほど続くが、どれもほとんどホラー。一般的なショートショートとは違う、意味不明で不気味なものに仕上がっている。

 両方の作品、いや、今の氏の漫画に関しても同じことが言えるが、この登場人物がすぐに消え失せてしまそうな線の細さに、青春の儚さを表現しているかのようなイメージを植え付けられる。そして後味の良し悪しに限らず、考えさせられる話が非常に多くて、まるで「自分の人生にもこのような葛藤があったかもしれない」というデジャヴを感じる。

 当たり前の事だが、確かに10代の内って失敗ばかりする。人間失敗しないと学ばないし懲りない、とはよく言ったものだが、【空灰】のバッドエンドに見舞われたキャラクターのように強いショックや後悔や過ちを重ねた人間が、立ち直れない程の苦しさを味わってしまったら、もうどうしようもないのではなかろうか。青春とは人生そのもので、その時代の失敗は良くも悪くもその後の人格形成に繋がってしまう。そのセミのような儚く短い期間でその人の生き方が決まってしまうことを暗に伝えているのだとしたら、やはりこの作品群は恐ろしい。

 間違ってもこれら一話一話をここでネタバレするわけにはいかないほんの少ししてるけど。とりあえず、ギャグもホラーもごちゃまぜの闇鍋のような作品を楽しみたいのであれば、この二つ、特に【空灰】の方は、一読を強く勧めます。