静かだけど確かにそこにある近隣住人の悪意【ずっとお城で暮らしてる】

            <p> </p>
ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

 

 

 一家毒殺事件。今その屋敷に住んでいるのは主人公のメアリ・キャサリン・ウッド(メリキャット)と姉のコンスタンス(コニー)。そして毒で身体を悪くした伯父のジュリアン。事件が発生してから、コンスタンスが容疑者としてあげられるも、裁判で無罪となる。だがその事件が起きてから、近隣住人の目は、冷ややかを通り越して、完全に悪意に満ちたものであり、数々の皮肉や批判を彼女たちに浴びせる。しばらくしてから、従兄であるチャールズが屋敷に来訪し、外の世界へ出るようにと言う。しかしそのチャールズの見た目はどう見ても……

 

 一見すると、本当に家族を殺したのは誰なのか、とか、人間の憎悪とはこういうもの、といったことを書いたサスペンスホラーにも見えるが、大きな屋敷の中の居心地と、村の殺風景さや人々の忌まわしい発言や後半における彼らの凄惨な行動が、ちょうど良い具合に光と影のようなコントラストとして映り、読者を引き込ませる。

 一部主人公達に良くしてくれる住民もいるが、メリキャットの視点のほとんどは、他の人間から発せられる悪意を受け取っている。まあ当然と言えば当然だろう。人は普通100の善意より1の悪意を受け取るものだから――

 先述の通り、裁判で姉コンスタンスの無罪が言い渡されても、彼女に対する疑念は持たれ続けている。

 

 メリキャット お茶でもいかがと コニー姉さん

 とんでもない 毒入りでしょうと メリキャット

 メリキャット おやすみなさいと コニー姉さん

 深さ十フィートの お墓の中で!

 

 こんな歌を周りの子供達が歌っているくらいである。もちろん大人たちの相伝により。

 だが、後半になると、ある真実が浮き彫りになる。それを考えると、主人公のとった行動は……

 

 日本の作品で言うと「イヤミス」の部類に入りそうな本作。この作品がもつ独特さは、単に周囲の悪意だけでなく、その主人公のもつ、狂った自意識。果たして本当に他人から受けていた悪意というテーマだけで、この物語を語れるかどうか。それは読んでみればわかるはず。読んでいくうちに感じるこの息苦しさや、死にたくなるほど薄汚い暗渠のような雰囲気は、おそらく一言では語れない。

 

 しかし、ただ無批判に彼女たちに同情の念を寄せるわけにはいかない。何故なら主人公もまた業の深い思いや行動を繰り返すのだから。

 一般的に、憎しみは何も生まない、と言われている。この作品に関しても、憎悪は結局互いにすれ違いを与え、何も救わなかった――というところはある。

 ただ、最後の主人公の台詞。これにより、ある一つの解釈に従って読めば、もしかしたら全てが主人公の思惑通りだったのかも知れない、と思わせてしまう後味の悪さを感じさせるところが、この作品の小憎らしい所。そう、全ては最後のページに書かれてある主人公の行動の理由。そこにこの作品の意図が凝縮されているとしたら――。

 

 良質なホラーであるとともに、ミステリーでもあり、何度も読み返したくなる作品であった。幽霊とかよりやっぱり人間が一番怖いね……