自分を変えたい人にとっても、読めば誰かの力になることの意義がわかる【社会を変えたい人のためのソーシャルビジネス入門】

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 いかにも、なタイトルの新書。普段はあまりこういう本は読むことは少ないのだが、今回ちょっと所属しているNPO法人の代表者の方が紹介していたので、アマゾンでぽちっと。2時間程度で読み終えたものの、その内容はよく噛み砕かれていながら自分でもしっかり吟味すべき部分が多い、と感じるものだった。

 

 本書は、ソーシャルビジネス、と銘打ってるものの、ターゲット及び内容は、概ねNPO法人やボランティア団体など、非営利活動を行う人のために書かれている。それは実際、今の日本の社会を変えるのは、こういった人々の助け合いから始まる活動からきていることの表れであり、尚且つこの拝金主義の世の中をどこか嫌がっている人であふれているのだろう。現代はある意味で、お金儲け目的以外で集まった団体が多くの人を助ける、ということでもあるが、本書では明るい所だけでなく問題点などにも当然触れている。どんなことをするにもまずお金の問題は絡んでくるのだから、そのやりとりや駆け引きの難しさといった、団体を運営していく上で必ずぶち当たる壁に対しても余すところなく書かれている。行政を頼りに出来る時代はとうに終わり、これからは民間の団体や活動家達が国を動かす時代がやってきた、とも言える。

 しかし、それはこうも考えられないだろうか?

 この本は何もソーシャルワークやボランティアなどを行う人だけを対象にしているわけではなく、この国に生きる全ての人に向けた啓発本だと。

 

 今時啓発本と言うと、かなりの胡散臭さ、もしくは夢をかなえるゾウの水野敬也氏の書籍のようにすごく売れている本、と言った両極端なイメージで連想されやすいが、そうではない、タイトルと中身がいい意味で一致しない啓発本だってあるのだ。この本もその内の一つと言える。

 「ソーシャルビジネスなんかに興味がない」「ボランティアよりも自分の事の方が大事」。今日の社会に揉まれ、毎日をギリギリで生きている人の中には、正直な所そう感じている方も少なくないだろう。実際僕だって、去年まで精神の病にかかっている時は(今も全然完治してないけど)、自分のことしか考える余裕がなかった。だから、僕からNPOが行うような人のためになる活動や金儲けにならないことを他人にすすめる気は全くない。もちろんソーシャルビジネスをすすめる意図も皆無である。

 確かに、非営利団体を立ち上げ、存続させ、大きくしてくためのノウハウがこの本には詰まっている。寄付モデル、対価モデル、助成金制度の問題点、資金繰り、スペースの作り方、プレスリリースの運用など実に多くの解決法が書かれている。それに関してはタイトル通りとも言える。しかし、このように個人の意思から始まった団体の運営は、そっくりそのままこの社会を生きる学生や社会人の生き方のモデルにもなるのではないか?

 この社会で生きていくためには、自らが社会を支える覚悟が必要だ、ということを作者はズバリ言い当てている。僕もその通りだと思う。あらゆる意味でもう行政は頼りにならない(が、団体を運営していく上で完全に無視したり敵視するのも良くない)。健康かつ文化的に生きていくためにはまず自分が社会に参加するという意思表示をしなければ、“自分自身を”変えることが出来ない。つまりこの本はしっかり今この世の中で生きていく上で自分を変えたい人にとっても、応用を利かすことの出来るヒントまでもがギッシリ詰まった本だ、とも言える。

 人間は社会的な動物だ。一人の力は非常に弱く、生き延びていく事が困難なことは、文明が発展していくにつれて人類の寿命が延びていったという事実が証明している。では、人が人らしく生きていく方法とは何か? これはもうはっきり言って一つしかない。出来る限りでいいので、人と広く深く関わる事である。何もコミュニケーションが苦手な人にコミュ力を上げろとか、世のため人のために動き回れ、と言いたいのではない。しかし、自分以外の人と出会い、関わることがどれほどその人自身にとって重大な意味を持つか。それを知る、というだけでその人は大きく成長できる。本書に書かれてあるような、団体を立ち上げて誰かの助けになりたい、という心は、人一人が誰かを助けたい、と思う時の心と何一つ変わることはない。本書は大きなことをしようと思ったり、どこかの団体に所属しているまたはしようとしている人以外にも十分に人生を心豊かに生きていくためのロジックが書かれている書籍なのだ。

 もちろん、ソーシャルビジネスやボランティアといった、一般にはまだまだ馴染みの薄い文化に、眉を顰めたり反対の声があったりなどといった点も見逃していない。NPOを立ち上げ、存続していくのに、ネガティブな意見を言う人は、身近の人間にこそ多い。本書ではそういった人の事を「ドリームキラー」と名付ける。そして私事だが、僕もついこの前、残念ながらそういった方に遭遇した。そのような場合、後ろ向きな助言や批判についてももちろんだが、あらゆる困難に対して「なんで?」と聞き返し、疑問をもつことを習慣にすべき、と著者は語る。どんなことだってそう、法人の存続から自分一人の人生の運転まで、壁はつきものだ。そのような時に慌てふためいたりしないように、常に疑問をもって行動し、コミュニケーションを交わし、自分のためになるよう生きていく。それこそが大事なことなのだと気付かされた。

 僕の場合、その方法の第一歩が、まず人との出会いで、そこから読書で知識や知恵を磨いていくことを念頭に置いて行動するよう心掛けている。僕は社会を変える程の器は持ち合わせていないと自覚しているが、他の人と同じように自分を変えることは出来る、と思っている。本書を読んだ人の中で、自分及びその人の周りの人をより良く生きる方向に向かわせられた、という人が一人でも多く現れてくれることを、願ってやまない。