表紙と見返し部分がある意味で全てを物語っている【三日間の幸福】

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三日間の幸福 (メディアワークス文庫)

三日間の幸福 (メディアワークス文庫)

 

 

「人一人の命は地球よりも重い」

 

 僕にもこんな言葉を真に受けていた時期があった。

 

 しかし一年につき一万って……という先入観だけでこの本を読まずに評価してしまうのは早計というものだろう。

 

 という訳で、今日はこれ。

【三日間の幸福】原題【寿命を買い取ってもらった、一年につき一万円で】

 

 僕はライトノベルはそれほど読まないのだけれど、こういった終わりの始まり的なもの、具体的には、人間の終末という巨大な力の前に登場人物が、あまり頑張らずに、それで生きていくというものは本当に大好き。この“あまり頑張らない”という所がポイントで、終末を受け入れる、もしくは自分から片足(時に両足)突っ込んでるくせに実際にはひたすら生きようともがいている、というのは、何だか今の日本という国に生きる人々の心理を皮肉的にとらえているみたいで、とても僕の趣味に合っている。

 ただ、この小説が他のそれと一味違うのは、主人公の行動一つ一つに、リアルを感じない反面、心理描写に共感してしまうから。

 普通どんな理由があるにしても寿命を一年につき一万で買い取ってもらわない。しかもそれで得た金をあんな形で手放したりしない。

 しかし、この本はそういった部分を、十分な説得性を含めた上で巧みに書く。現実的な心理描写で、切なく。

 ここにリアリティとリアリズムの違いというものがわかる。

 

 主人公の心理描写が中心とは言え、その分ストーリーの一つ一つがそれぞれ非常に重要な形で繰り広げられていくため、その展開の内の一つでもネタバレをするわけにはいかないが、それでも何も触れないというのはちょっと野暮なので、内容を示唆する部分だけを少し。

 表紙と、それをめくった時の見返し部分。見比べてみると女の子がいない。これが本作のストーリーにおいて重要な意味をもつことに後になって気付く。

 この三日間の幸福というタイトルそのものに、強いメッセージが込められているわけではないだろう。それでもあえて、「寿命を買い取ってもらった、一年につき一万円で」という原題から変更したのは、最後まで程よいスピードと、飽きさせない展開を施すためのエッセンスのようなものなのかもしれない。本というものにとって第一印象の一つとなるタイトルを、そのような脇役的立場に置き換えてしまえる程に、この小説の展開や心理描写は、卓越している、と言い切れる。

 また、通常この手の内容だと、監視員である立場のミヤギは、神かそれに近い性格として描かれることが多い。主人公を監視する、というよりは俯瞰するような感覚で。デスノートリュークだって、性格は人間臭いが、最後にはあっさりと主人公を殺した。それは、主人公の個性を際立たせるために、主人公と相方を対比させ、主要キャラを活かすという、創作における一種の手法とも言える。

 しかし本作のキャラクター同士の関係性ややりとりが、既存の作品のそれに当てはまらない理由も、後半になればなるほど生きてくる。推理小説でないのにミステリー作品を読んでいる時に感じるような、息をもつかせぬドキドキ感を得ることが出来る。

 そう、ある意味ではトリックなのだ。タイトルも、コピーも、裏表紙の解説も。

 ただ一つこの本を簡単な形でしっかりと表現している要素があるとすれば、先述した通り、表紙と見返し部分ではないかと思う。

 

 その心は、読んでみないとわからない。

 作者の意図やタイトルの意味など、上っ面なことはどうでもいい。

 押しつけがましい言い方は好きではないが、とにかく読めばわかります。この本を読んだ時の自分自身の感情や、読後感が。

 きっと読んだ人によって違うはず。