【山野一】無間地獄とも言える不幸の連続。それでも。【四丁目の夕日】

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 はい、こんにちは。今回は山野一氏の伝説のコミック【四丁目の夕日】。

 トラウマ級の漫画として有名なので、未読の方はいろんな意味でお気をつけくださいませ。

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……この本とにかく暗いから、本当は書いて記事にするつもりはなかったのだが。

 でも、ブログやフェイスブックなどのSNSを見ていると、やはり人には人それぞれの幸福だけでなく悲しさや苦しさなど多種多様な人生があり、中には主人公とシンクロしてしまうような人もいるのではないかと思い、再読に至る。

 そして、書評にしてまとめた次第である。その結果ちょっと気付いたこともあったし。

 

 この本のあらすじはだいたいこんな感じ。(カッコ内は作品の内容に対する私の突っ込みどころ)

 一橋大学合格を目指す受験生の主人公。彼は金持ちの友人と学校の昼食時間中に、「ウチは浪人はおろか私立だって無理なくらい貧乏だから」といった話をする(例えば、奨学金や給付金制度の整っている大学に行くという手もあったと思われるが)

 その後、主人公の彼女とちょっとした口論が元になり、逃げられる。それと同時に、暴走族に襲われる。

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 彼女はほぼ何もされていない状態で、主人公は別の場所で思いっきりボコボコにされた後、それぞれ偶然通りかかった金持ちの友人のおかげで助かる。主人公は友人と共に命からがら帰宅。ちょうどその時、母親が家でゴミを燃やしていたとき、スプレー缶が爆発するという事故を起こしていた。その場にいた母親は大怪我をする。一家の困窮が幕を開ける。

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 工場経営者である父親は、医療費と主人公の大学の費用を稼ぐために、寝る間も惜しんで働く(もともとヤクザから金を借りて事業を起こし日々の生産を回していたという自転車操業だったのに、稼働時間を増やし医療費を稼ぐとか無理ゲ―)。その結果、疲労の影響で事故を起こし、父親死亡。家には莫大な借金が残る(何故労災がおりなかったのか)

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 ヤクザから激しい取り立てを受ける。主人公も葬式の最中、人前でボコボコにされる(こんなことがあったら即警察沙汰になってもおかしくない)

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 主人公は大学受験を諦め、幼い弟と妹のために、父親と同じ仕事である印刷工に就く(金持ちの友人に、頭を下げてでも”頼る”ということを考えればよかった)。新たに住み始めたアパートも隣にキ〇ガイがいるような劣悪な環境。

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 生活は貧しくとも、安定した日々が続いていた……かのように見えたが、慣れない重労働や会社の人間のパワハラなどが原因で、主人公は精神を壊しはじめる。たまたま数年ぶりに出会った金持ちの友人や元彼女との会話のシーンは、もはや正常な人間のそれではない(何故これほどの事態に陥る前に、誰もちゃんと気付いていなかったのか)

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 家で弟の誕生日を家族で祝っている間に、隣に住んでいるキ〇ガイが斧を持って来襲。妹と弟を惨殺。主人公はその瞬間完全に理性が切れて、キ〇ガイの持っている斧を奪い、返り討ち。そのまま外に出て、通行人を次々と殺害。取りおさえられた後も責任能力がないとみなされ無罪となり、精神病院へ入院(こうなる前にry)

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 30年余りの月日を経て、退院することに。清掃員の職を与えられ、ようやく第二の人生を始めることになる。

 

 うーん、ひどい漫画だ(直球

 所々突っ込んでみたものの、これは漫画の内容に対するダメ出しの意図によるものではない。

 

 確かに、これほどの不幸の連鎖を繰り返す前に、対処できることはいくらでもあったはず。そしてそこでくい止められていれば、後続の悲劇に繋がらなかっただろう。

 人間堕ちるところまで堕ちるシナリオを用意されたら、本当にどこまでも転落していくことが出来るのである。そして一度、不幸の連鎖という火蓋を切ると、もう自分の力では抜け出せなくなる。

 そんな一人の人間の弱さを、この漫画は描いているのである。

 

 例えば、先述の私の短絡的な意見で、部外者が「そうなったらこうすればよかったのに」と口を挟むかの如く、突っ込むのは簡単だ。

 しかし、ほんの少し不器用であるがために、最善を尽くすことの出来ない人間が、この世には山ほどいる。

 ましてや、昭和の殺伐とした町と工場を舞台にしているのだから、自己を救済する考えに至らなかったという背景もあるだろう。

 今の世の中だったら、一度何かあっても、少し人の力を借りれば、何とか不幸の訪れをくい止め、人生を持ちこたえさせることはそう難しくない。頼れる人に相談したり、福祉や支援、法律の窓口に足を運べばいいのだから。

 

 早い話、この主人公は父親が死んだあたりで、もう人間不信に陥っていたのであろう。

 誰も信用できなくなり、誰も頼れない。この漫画ではそういった描写はないが、本当にそれほどまで悩んでしまったら、人はもう幸福とは程遠い人生を送ってしまう。

 悲しい。

 常に、救いの手は身近にあったのに、その道を選ばずに、愚直に働き、最終的に狂う。でも人生って意外とこんなもの。地獄はこの世の中に確かに存在するのであるから、そこに嵌っていったと同時に誰かに助けを求めたりしなければ、底なし沼のように沈んでいくしかないのである。人一人が発揮出来る力なんて儚い。

 今の、SNSなど別の形でコミュニケーションが生まれたりした、平成も終わろうとしている世の中で、この本が教えてくれるのは、

「困った時は誰かを頼っていい」

 ということだ。

 陳腐なまとめに見えるかもしれないが、実生活上で生きていく上で大事なことは、本当にそんな簡単なことから始まる。

 この作品の文学性は高い。だからこそどんな苦しい立場にあろうと、読者は自分の人生に主人公と当てはめて考え、自滅という道を選ぶようなことはしてはいけない。僕はこの本を再読した時、それを学んだ。